最初から最後まで、不安で押しつぶされそうになる映画。次の瞬間、誰かが傷つくのではないか、誰かと誰かがすれ違うのではないか、ずっと心配で明るい気持ちになれない。でも目が離せない。緊張したまま進んでゆき、最後あっけなく終わる。
1982年のイタリア・シチリア島。田舎の狭いコミュニティの中で、少ない選択肢と保守的な価値観が支配する。花火師の仕事を協力し合う16歳のニーノと17歳のジャンニ。友情より進んだ関係に変わってゆくのだが、それを阻止する大人たちがいた。
この映画は、実際に起こった事件に基づく。1980年10月、シチリアの東海岸に位置する小さな町ジャッレで悲劇が起きた。25歳のジョルジョと15歳のトニが、何者かによって命を奪われたのであった。彼らが同性愛の関係だったことは、地域のコミュニティに知られていた。それに対して強い偏見を持った者によって殺害されたのであった。しかし、同性愛に対する偏見により捜査は進まず、容疑者はあっても犯人は特定されなかったそうだ。
キャスティングは素晴らしい。ダンサーでもあり体幹がしっかりしたサムエレ、出来上がっていない少年の細さのガブリエル。
これをきっかけに、イタリアでは同性愛の理解を進めるようになったそうだ。この事件の40年後の2020年10月31日には、ジョルジョとトニの遺体が発見された日にちなんで、ジャッレで同性のカップルの民事結婚式が行われたという。そして、ジョルジョとトニの墓に花が添えられたそうだ。ほんの40年前のこと、ジョルジョとトニは少し早すぎたのだ。